■短納期生産とは
最終消費者が、商品を買ってくれるか 買ってくれないか、何時、何を、幾つ買ってくれるかは、誰にも分かりません。全ての企業活動、全ての生産は最終消費者(=人間)の動向に左右されます。最終消費者との距離が遠いと(例えば研究開発部門など)この繋がりが見えにくくなりますが、世の中に受け入れられる可能性が無いものは研究も開発もしないはずです。
予測の難しい人間の行動原理を何とか予測し、その精度向上を目指す という方向も答えの一つですが、それと異なる考え方として、需要の推移に出来るだけ速く生産へ反映することも重要です。
バブル崩壊前の高度成長期は、「予測精度向上」の方が「需要変動に追随」に比べ重要視されてきましたが、「予測」というものの限界を知り、最近はもっぱら需要変動に追随する道が指向されているように思います。しかし「需要変動に追随する」ではテーマが広すぎるので、TPiCSの中では「短納期生産」と名付け、この問題を扱います。
例えば
①お客様から頂いた注文に、1日も早く出荷できる体制を、出来るだけ少ない在庫で実現したい。
②販売計画などマーケットの予測が難しく、毎日の受注状況に振り回されながら生産しているが、それをなんとか改善したい。
③得意先から内示情報を頂くが、間近な確定注文で大きく変わってしまい、常に混乱した状態を余儀なくされている。
④特急、飛び込みに、もっとスムースに対応出来るようにしたい。
⑤最近得意先から納期短縮の要請を受けている。
このような問題を解決するのが「短納期生産」で、根性や頑張りの体力勝負で対応するのではなく、頭脳勝負で対応出来るように、また出来るだけ少ない在庫で実現できるようにすることを、我々は「短納期生産」と呼びます。
■短納期生産に対する誤解
短納期生産に関しては、多くの方が重大な誤解をしていて、「ニーズは分かるのだけど、なかなか前へ進めない」状況なのではないかと思います。
①「今でさえ生産遅れがあって困っているのにこれ以上短納期で生産しろと言われたってウチでは無理だ」これが短納期生産に関する典型的な誤解です。では、この問題を生産遅れの原因を分類しながら少し詳しく考えてみましょう。
●部品の納入遅れが原因の場合、
これはTPiCSの機能の中に答えがあります。
TPiCSのf-MRPの基本の考え方は、「部品や材料は必要なタイミングで発注し、発注後はできるだけ変更しない」です。短納期生産をしても3ヶ月前に発注せざるを得ない部品は3ヶ月前に発注します。(詳しくは後述)
短納期生産を考える場合、“生産が決まってから必要な部品を手配する”ではなく、“既に手配されている中で生産出来るか否かシミュレーションする”と考えます。勿論、生産が決まってからでも間に合うものは、決まってから手配すれば良いのですから、調達期間の短いものが多いとシミュレーションの結果「出来る」可能性は高まります。調達期間が長いものには「生産の変動に対する備え(バッファ)」を設け、その値を大きくします。
既に手配されている部品や材料の中で短納期生産を実施する場合、「バッファ」の機能が無く、2 か月前3 か月前に発注している中で、強引に短納期生産を実施すれば、サプライヤーさんの生産を“かき回す”ことになり、結果として部品や材料の納入遅れに繋がりま
す。あるいはシステムで管理されない「自衛的な在庫」を抱え込むことになります。しかしTPiCS は必要なバッファを設定すれば、それを有効に活用出来るため、短納期生産をしても部品の遅れが増えることも無く、また管理できない「自衛的在庫」が増えることもありません。
●不良が主原因の場合
我々は「無理に急いで作って短納期生産を実現する」と考えている訳ではありません。部品や材料の発注と同じように、3日間必要な工程は3日間掛けて生産するしかありません。ですから短納期生産をしても不良が増える訳ではありません。
●設備等の能力不足が主原因の場合
設備計画は経営の問題で生産管理とは異なる次元の事柄です。しかし今日の生産をいつ決めるかと いくつ作れるか(設備能力)とは全く関係ない事柄ですから、もてる設備能力の中で需要にできるだけ近い時点で生産することは可能です。需要に沿った生産することで、不要不急なものを作るリスクは小さくなり、設備の有効活用につながります。
②しかし、最も短納期生産を阻んでいるのは「今でさえこんなに忙しいのに、これ以上短納期で生産しろと言われたって出来ない」という思いかもしれません。
これは現場の話と、事務所の話に分けて考えます。
現場の話は、①の誤解と同じように考えて頂ければ分かります。つまり3日前に決まった1,000個も2ヶ月前に決まった1,000個も、作業量は一緒ですから、現場の忙しさは短納期生産をしても変わりありません。
事務処理はさすがにそうもいきません。生産数量と比例して発生する事務処理は、同じ1,000個であれば短納期生産でも増えませんが、「今日中にやらなければならない仕事」が増え、その「切迫感」が「忙しくなった」と感じさせるかも知れません。しかし、TPiCSは「短納期生産の専用機」のようなものなので、TPiCSを使って頂ければ簡単に実現することが出来ます。
③平準化の問題も短納期生産を阻みます。
これも分かり易いように極端なケースを例に考えます。当日受注、当日生産のケースです。この場合、受注数がダイレクトに生産数に反映されてしまいます。
即ち、受注のボリューム変動がそのまま生産ボリュームの変動になってしまう為、平準化が難しくなります。
平準化については、次の問題も考慮する必要があります。
週の単位で平準化したいと考えたとすると、最低限、金曜日には来週1週間の計画が決まっていないと平準化の調整作業そのものが出来ません。また、中間工程あるいは先頭工程を考えると、来週末は再来週の仕事をしている筈ですから、再来週の先頭日の計画も決まっている必要があります。手前2週間は計画を決めなければならい=お客様のニーズを反映できないと考えてしまいます。
この問題の答えもTPiCS の着手信号機オプションの中にあり、詳しくは後述します。
④最後の誤解は、「着手から完成までの工期が長く、これ以上工期
短縮は出来ない」場合です。
このケースは、「誤解」とまでは言えないかもしれませんが、
TPiCSをご存じなければギブアップしてしまう、或いは答えに行き
着かない道を選んでしまいます。
品質管理上の問題等の理由で、着手したら工場内で止めておく
(=在庫しておく)ことが出来ない物を生産する場合は、逃げ道はあり
ませんが、それが可能なら、この問題も解決することが出来ます。
ましてや、工程の途中から加工方法により異なる製品になる、或いは組み付ける部品により異なる製品になるような場合は、大きな効果を上げることが出来ます。
「どうせシステム屋が調子の良いことを言っているだけ」と思いながらこの資料をパラパラめくっても何も生まれません。
是非「ウチでも短納期生産が出来るかも知れない」と思いながら、真剣にこの文章を読んで頂きたいと思います。
■短納期生産、変化に対応できる生産の実現
この問題を考えるためには先ず始めに、短納期生産を実現するためには何をしなければならないか、を考えます。その為に「生産には何が必要か」をおさらいしましょう。生産管理の教科書を開くと(40年近く前なので実はスッカリ忘れていますが)第一章には必ず「生産の5大要素」が書かれています。
①設備、場所 ②人 ③部品、材料 ④図面、仕様 ⑤資金 たしか教科書に書かれているのはこの程度だったと思いますが、これに⑥外注、協力会社を加えても良さそうな気がします。それはともかく、生産を行う為にはこの5大要素が揃う必要があります。この中で、短納期生産と大きく関係するのは③です。では、部品や材料の調達に焦点を当て、話を進めていきましょう。
「短納期生産」と「従来の3ヶ月先、4ヶ月先の生産」を比べ、部品や材料の調達の面で何が違うかを考えます。すると従来は「生産計画を決めてから手配をする」逆に言うと「手配が間に合うような時点で生産する」としていました。「生産」を考えると、どんなに沢山の部品を使っていても、またどんなに簡単な部品でも、一つでも不足していれば完成出来ないのですから、使用する部品や材料の中で入手するのに一番時間が掛かるものに合わせなければなりません。それが「3ヶ月先、4ヶ月先の生産へ反映」になった訳です。
部品や材料の調達期間を考えるとき、忘れてならないのがパワーバランスです。普通はサプライヤーの生産の都合や考え方で調達期間が決まりますが、発注する側が圧倒的な購買力(沢山購入する力、技術力、指導力等)を持っていれば、サプライヤー側の都合を無視して、発注後3日先とか4日先に納品させることが出来ます。
ここでの考察は、このような「大企業等の特殊な状況」ではなく、一般的な製造業を中心に考えていきましょう。
部品や材料を希望通り(計画通り)に調達する為には、その部品を入手出来るタイミング(発注リード日数)で発注しなければなりません。しかし、先行き遠いタイミングでの発注をすると、短納期生産の中では「最終的に何を作るか」が決まる前に発注することになります。
これは、短納期生産を行うためには、既に手配されている部品や材料の中で「何を作るか、いつ作るか」を考える、つまり手配状況をベースに生産計画を考えなければならないことを意味します。勿論、調達期間は部品や材料によって異なります。実際には発注先により同一になることも多いかも知れませんが、本質的には部品や材料によって決まります。
その上で生産計画を考えるとき、部品や材料毎に「今から発注して間に合うもの」と「もう間に合わないもの」とに分けて考えなくてはなりません。
TPiCSの所要量計算では、部品や材料毎に、既に発注されている期間と、これから発注すれば間に合う期間を明確に分けて計算しますが、一般的な生産管理システムは「製品の計画ありき」で、その実施のために必要な部品を発注する、という考え方で作られています。その為、この時点でもう、一般的な生産管理システムでは短納期生産に対応することが難しいことが分かります。
ここで、「既に発注している分」や「既に生産指示をしている分」も「計画」と考えることが出来るので、これらを「手配済みの計画」と呼ぶことにします。
「長い調達期間の部品」と短納期生産の関係を考えると、設備が生産計画に与える問題と似ていることが分かってきます。一般的には設備を作る為にはある程度の期間が必要で、今日明日の問題ではありません。すると、「既に決まっている設備能力の中で生産計画を考える」ことになります。
しかし、部品や材料の発注は設備能力と少し違うところがあります。部品や材料の発注は、ある程度「無理が通れば道理が引っ込む」面があり、設備と比べると多少融通が利きます。融通が利くという面では、むしろ人員の問題と似ているかも知れません。
■シミュレーションという考え方
多かれ少なかれ、何を幾つ生産するかが決まる前に部品や材料を発注しなければならないものが有るなら、それらの「手配済み計画」を考慮しながら生産計画を考えなくてはなりません。
部品が不足する、しない、間に合う、間に合わないを考えながら生産計画を作る、通常それをシミュレーションと呼びます。そうです、TPiCSの所要量計算はシミュレーションという考え方が非常に強いのです。
それに対し一般的な生産管理システムは「必要数を算出し、指示書を発行する」という一方通行の考え方にとどまります。必要数に在庫の引当てやロット纏めを行い、部品や材料の発注或いは生産指示をして「後は頑張って実施してください」です。その通り出来るか否かは、システムは知らんプリです。
私はそれを「垂れ流しの生産管理」と呼んでいます。発注した計画を一般的には「オーダーリリースした計画」と呼び、オーダーリリースした計画は次の所要量計算ではもう計算の対象にはしません。あるいは所要量計算の対象とする期間と、対象にしない期間、つまりシステムでは計画の変更に対応しない期間を分け「タイムフェンス」と称する概念で区切ってしまいます。「システムとしてはリリースしたのだから、もう計算の対象にしません」と言われると、一見尤もだと思ってしまいます。或いはこれまでは、それを「当たり前のこと」と思っていたかも知れません。しかし、短納期生産を直近まで実施しなくてはならなくなり、タイムフェンスの中まで入り込むようになると、それでは困ります。
直近の計画であっても、システムできちんと計算して、出来る出来ないの見通しを付けながら計画をメンテナンスし、全ての生産活動がその生産計画を中心に動いていく。 これが我々の考える短納期生産です。
■チョット難しい話
しかし、これを実現する為には一つハードルがあります。システムで計算するとき、システムは何を基に計算するかを考えると、登録されているマスターを使って計算します。また在庫の情報も使います。次に忘れてならないのが、手配済み、確定済みの計画データです。
では、手配済み計画データの中に、“納入されるあてがないもの”が混ざっていたとするとどうなるでしょう。
システムは“あてがある”か“否か”は分かりませんから、それらの計画データも使い、とにかく手配済み計画に従って納入される前提で計算します。すると、その部品を使用する製品の計画が新たに入ってきても、現在の計画で充足すると計算してしまいます。しかし、その部品は納入されないのですから、生産出来ません。つまり、本当は生産出来ないのに、システムから警告情報が出せないことになってしまいます。
所要量計算で正しいシミュレーション結果を出すためには、
① システムに登録するマスター
② システム内の在庫数量
③ システムに記録されている計画そのもの
を正しくしておく必要があります。
しかし、一般的に①と②は話題になりますが、③はあまり話題になりません。それがなぜかを考えます。
以前は、MRP計算は月に一度しか行わないというのが一般的な運用方法でした。例えば毎月1日にMRP計算をするケースで説明すると、次にMRP計算をするのは来月の1日です。例えばN月1日に所要量計算すると、次の所要量計算はN+1月1日です。N+1月1日には、N月(前月)の1日から31日までの全ての日は過去日ですから、当然再計算の対象になり得ません。その結果、MRPシステムに入力する計画は「マスタープラン」とか「基準日程計画」と呼び、「部品や材料を手配するための計画」と位置づけられ、日々の本当に生産しようとする計画を「実行計画」と呼び、「二つは当然異なるもの」と考えるようになりました。そして「実行計画でマスタープランを修正する」という考え方は、必要性も、またシステムにその機能も有りませんでした。
一般的なシステムは、今でもその考え方の延長で設計されているため、オーダーリリースした計画は再計算の対象にしません。そして再計算しない(出来ない)区間を「タイムフェンス」と呼び、次のように説明します。「今日、明日、直近の計画を変えろといわれても変えられないでしょ。それを無理やりやらされていたから今まで困っていたのでしょ。弊社のシステムは、タイムフェンスで守ってあげますから、従来のような混乱を解消します」と。しかし、明日でも明後日でも、計画を変えなければならない事態は発生します。そもそも「マスタープラン」と「実行計画」は異なる前提なのに、「マスタープランをタイムフェンスで守ってあげます」といわれても何も嬉しくないはずなのですが・・・。
では、システムを使っていて「マスタープラン」と「実行計画」が異なると何が起きるかを考えます。
(A) マスタープランから計算された注文書通りに部品や材料が納品されていても、今日明日の実行計画で部品に不足があるか否か分からない。生産管理システムを使っていても、毎日残業をして明日の生産、明後日の生産に必要な部品が本当に足りているか、電卓を使って検算することが必要になる。
(B) システムの生産計画表を見ても、今日、明日、何を生産し、何が出来るのか分からない。
(C) 直近の計画変更をシステムが処理してくれないので、直近で追加生産する場合は、「例外処理」で対応しなければならない。
しかし、TPiCS流の「タイムフェンスが無い=オーダーリリース分も完了するまでは常に再計算の対象にする」ロジックも、全く“ノー天気”なものではありません。オーダーリリースした計画も実態と乖離してはいけない。システムの中の計画データを常に実行計画、実施出来る計画に合わせなければならないという縛りがあります。
これはこの分野の実務をなさっている方なら、それを実現する難しさも、またことの重要性も、分かって頂けると思います。
社内のことなら頑張ればなんとかなるかも知れませんが、社外のサプライヤーさんの情報となると、なかなか入手出来ません。私は弊社で開催している研修会の中で、いつも次のように話しています。
「私は20数年前、ある製造業の中で生産管理の仕事をしていました。その頃、もし私がTPiCSの研修会に参加し“TPiCSを巧く使うためには部品や材料のレベルまで、常に実施できる計画にメンテナンスしなければなりません”と言われたら、社に帰り、報告書を書くとき“TPiCSは当社で使うのは無理です”と書いたと思います」
説明はもう少し続きます。「しかし、2年ほど前、この話をお聞きになった方が“確かに計画もメンテナンスしなければ本質的な問題解決にならない”と思い、TPiCSを購入し、計画をきちんとメンテナンスする運用を実践なさいました。その結果とても大きな効果を得ることが出来たそうです」とお話します。
例えば、
●得意先から納期の繰り上げ要請や追加発注などがあると、対応可否の答えを出すのに、従来は2週間ほど掛かっていたが、TPiCSを導入してからは1日で出せるようになった。
●計画をこまめにメンテナンスしているので、TPiCSの画面を見ると誰でも“いつ何が完成するか”あるいは“今自分は何をするべきか”が分かるようになった。
●お客様への納期遅延が減った。
●売り上げが前年比1.5倍になった。
などという効果があったとお聞きしています。売上げが1.5倍になったことまで全てTPiCSの導入効果だとは思いませんが、でも嬉しい話しです。
大変な様でも「やれば出来る」「やれば本当に効果がある」ということを、証明して頂いたようなものです。
■計画管理
しかし、短納期生産を実現するためには、TPiCSユーザーにやって頂かなくてはならない大事なことが二つあります。
①システムの計画データを実行計画に沿って常にメンテナンスする。
上記したように、TPiCSの所要量計算(シミュレーション)を正しく意味あるものにするためには、計画データを全てメンテナンスすることが必要です。
②システムの計画を守って生産する。
言うまでもありませんが「計画を守る」という姿勢が無ければ、何も始まりません。計画を守ってこそ整合性の取れた生産が出来、短納期生産が実現できます。
このような考え方や運用方法を我々は「計画管理」と呼んでいます。
誤解があるといけません。一般的な生産管理システムと同程度の運用レベルでよければ、TPiCSを使って頂いても「計画管理」をする必要はありません。
●システムの画面を見ると、今現場で行われている仕事と異なるものが表示されている。
●新規の注文が入った時、生産できるか否か電卓を叩かないと分からない。
●直近の計画変更はシステムが対応していないため、頻繁に特別処理で追加発注しなければならない。
●あるいは、それを見越して発注担当者が割り増しして発注している。
●部品が注文書通りに納品されていても、今日、明日の生産が賄えるか否か分からないので、いつも在庫を数え、電卓を叩いて確認しなければならない。
●これらを考えると、どうしても在庫を多めに抱えてしまう。
このような状況のままでよければ、TPiCSを使って頂いても「計画管理」をする必要はありません。
■社外のサプライヤーさんの情報について
社内の実行計画をシステムに反映するのは、頑張ればなんとか出来ますが、購入品の場合、社外のサプライヤーさんから的確な情報を入手するのは非常に難しいです。
しかし、難しくしている原因の大半は発注側にあるのではないでしょうか。
私が製造業にいた時は、部署が違ったので実際にその立場になったことはありませんが、もしサプライヤーさんから“納入が遅れそうです”という連絡を受けたらどうしたかを考えてみます。
その当時のシステムは、サプライヤーさんから
“延伸願い”が来た時、その情報をシステムに入力する機能はありませんでした。すると、システムで動いているところを、全てシステム外の処理でカバーしなければなりません。20年前の汎用機のシステムですから、手作業が混在した(ある面手作業の方が優先した)運用なので、むしろ対処しやすかった筈ですが、それにしても面倒な仕事です。みんなに喜ばれる仕事ではありませんから、そんなことを工場の中でショッチュウやると、私の成績も悪くなってしまいます。
その頃の部品発注は、3ヶ月後、4ヶ月後の納期の発注をしていました。
そこで、私が延伸の連絡を受けたなら、次のように対応したと思います。
サプライヤーさんが注文書を受けて直ぐに電話をして来たら
「まだ納期まで時間があるのだから何とかしろ!」
逆に納期間近に電話をして来たら
「今まで何やっていたんだ!」
と言って受話器をガチャンと置くでしょう。
サプライヤーさんもガチャンと受話器を置かれるだけと思えば、余程のことがない限り「遅れそうです」とは言って来ません。
延伸願いが無く、また本当に納入遅れの無いことが一番良いのですが、実際には納入遅れはそう簡単には無くなりません。ドタキャンされて困るのはこちらです。前広に情報を得て、的確な手を打たなくてはなりません。納入遅れが先に分かっていれば打つ手も考えられますが、当日になってから「ごめんなさい」と言われては困ります。
この問題を少しでも解決するために開発したのが、SCMオプションです。(SCMオプションについては5章「サプライヤーさんとの情報共有」をご覧下さい)
■なぜ短納期生産が出来ないか
「なぜウチではこれ以上短納期生産が出来ないか」を、ここでもう一度考えてみて下さい。
●これまで何度か「生産管理システム」を検討してきたが、ウチの仕事には合わないと思って採用してこなかった。
●生産管理を手作業やExcelなどで行っていて、仕事が間に合わない。
このようなケースもあるかもしれません。
あるいは、既に生産管理システムを使っているが
①「タイムフェンスがあるシステム」を使っていて、システムの計画を実行計画に合わせられない。
②生産管理システムを使っていても、納入されている部品で今日あるいは明日の生産が、賄えるか否か、分からない。
③資材担当が、電卓を叩いて確認しなければならない。
④確認作業は、部品の不足があった時、今日や明日のことを騒いでも間に合わないので、手前数週間の部品の生産状況や納入状況を、チェックしている。
⑤納入状況をチェックするのは大変だから、一度チェックした期間は計画を変えたくない。またその間は、もし部品が不足しても、どの道間に合わない。
⑥だからこれ以上の短納期生産はできない。
ではないでしょうか?
どうでしょう、ここまで問題点をクリアーにすれば、そして具体的な解決策があれば、ウチでも短納期生産が出来るかもしれない、と思っていただけたのではないでしょうか?
■平準化の問題
短納期生産を考えていくと必ず平準化の問題にぶつかります。
「本日受注し、本日生産し、本日出荷する」あるいは「本日3日後出荷の注文を受ける」ような生産の仕組みを考えると、生産ボリュームが受注ボリュームにリンクしてきます。受注ボリュームが平準化されていれば良いですが、平準化されていなければ、生産ボリュームは受注ボリュームに従って波をうってしまいます。
また、生産計画が決まってないと平準化作業そのものが出来ないため、平準化したい期間は、計画を先に決める必要があります。
「平準化はしたいし短納期生産もしたい」この相反する問題を、TPiCSは次の2つの方法で解決します。
①「計画明細作成期間」というパラメータを使って「手前2週間を仮固定しながら生産計画を作る」機能
必要期間(例えば、手前2週間)の計画は、所要量計算上はフィックスするが、まだ指示書などは発行しない状態(生産計画を仮固定した状態)にします。毎日受注データを登録し毎日所要量計算をします。仮固定した計画で、過不足が無ければ(設定した許容範囲の中なら)その計画のまま実行します。もし過不足が有る場合は、それをシステムが教えてくれるのでその時は生産計画を修正します。
TPiCSの所要量計算には、フィックスした(独立需要と呼ばれるものに似ている)計画と、計算に従い算出される(従属需要に似ている)計画があります。一般的な生産管理システムでは、独立需要と呼ばれる計画は最終製品にだけしか適用出来ませんが、TPiCSの場合は、どの工程でも、また、末端の材料部品でも、フィックスして計算することが出来ます。更に、更に、製品や部品、工程を抽象化してアイテムと呼び、そのアイテムごとに手前何日間フィックスするかを指定することも出来ます。この機能を使って平準化の問題を解決します。
②着手信号機オプション
平準化の原点は、現場の人が作業指示書に従って仕事をしようとするとき「今日は山ほど仕事があるが、明日は半日分の仕事しかない」ような状態だと困る、です。この原点に立ち返って問題を考えると、現場の人が「今日どこまでやれば帰ってよいか」が分かりさえすれば良い、と考えることが出来ます。
着手信号機オプションは着手信号機オプションは、現場の人が「今、自分は何をするのが良いのか」を判断できるようにする為のものですが、同時に「どこまでやればよいか」も知ることが出来ます。生産計画そのものには多少の凸凹があっても、例えば月曜から金曜日までの平準化を考えて、今日はどの作業までやればよいか、あるいは、明日の作業もやらなくてはならないのかを、現場の端末に明示することが出来ます。
(それぞれ、4章「手前2週間を仮固定しながら生産計画を作る方法」、6章「現場指示と平準化」をご覧下さい)
■着手から完成までの工期が長い場合
例えば着手から完成まで10工程有り、完成するまでに10日間必要な場合でも、工程間に在庫ポ
イントを設けることが出来るなら、TPiCSは工程内のアイテムにも基準在庫を設定し、それを
引当てながら所要量計算できるので、今日の受注を明日の完成計画に反映することが出来ます。
また、共通の材料を加工し、共通の仕掛かりを作り、途中工程から加工方法により、複数の製
品に成るような場合、中間工程も共通部品のように扱うことが出来るので、それも引当てながら
所要量計算することが出来ます。
TPiCSのこの使い方は、システムとしては極自然な動きであるため、むしろ詳しい説明がしにく
い程ですが、お客様からみるとなかなか理解して頂きにくいものの様です。しかし、とても重要
かつ有効なものであります。
■実績について
一般的には「MRPが正しく計算される為には、実績を正しく入力しなければなりません」と、言われます。システムに入力するデータは全て正しくなければならないのは、TPiCSでも同じですが、正しい所要量計算結果(シミュレーション結果)を得るためだけを考えると、TPiCSは実績入力より計画管理(計画を正しくメンテナンスする)の方が重要です。
なぜなら、「■チョット難しい話」で書いたようにTPiCSの所要量計算は、未完の計画については計画をベースに計算するので、特殊なケース(大量に不良が発生した等)でなければ、実績を登録しなくてもある程度の精度で所要量計算することが出来るからです。
それに対し、サプライヤーさんから「遅れます」と連絡を受けていても、システムにその情報を反映しなければ、正しく計算できません。
●もし「計画管理」が巧く出来たとするとどうなるか。
システムに入っている計画のデータが全て生きていて、その計画通りに現場が動き、またサプライヤーさんも計画通りに納品して来ます。すると、システムの画面を見るだけで、各現場で今何をしているのか、明日は何が出来るのかが、全て分かることになります。つまり、現場に行かなくてもパソコンの画面を見るだけで、現場の状況が分かるようになります。
これこそ「見える化」です。
●もっとも「見える化の本質」は、ただ見えればよい訳ではなく、見えるようにして、そして何をするか、です。
その結果を改善活動に繋げるとか、工場の安全管理の「ヒヤリ・ハット」活動の様に、小さなシグナル(予兆)を見て、大きなトラブルが起きないように事前に施策を講じる、です。
●画面にデータを表示するだけのシステムであれば、チョット器用なプログラマーなら簡単に作れます。
しかし、画面に常に生きたデータを表示させるのは大変です。
そして、そのデータを本当に活用するのは更に大変です。
「システムに魂を入れる」とでも言うのでしょうか。
●一方 実績面では、見える化の機能として「管理チャート」を提供しています。これは、TPiCSのデータをもとに、管理資料や分析資料を作成するものです。進捗管理、出荷進捗管理、作業能率管理、コストダウン管理、受注・手配金額管理、歩留まり管理、在庫金額管理、停滞在庫管理、生産高(計画・実績)管理、アイテムマスター分析のデータを集計、表示します。
管理チャートは様々な切り口による実績の分析が可能です。
例えば「進捗管理チャート」をクリックすると、グラフに表示が切り替わります。進捗管理の分析で最もネックになるのが部材や前工程の遅れによる影響の配慮です。この管理チャートでは前工程の遅れを差し引いた分析や、当初納期からの繰り上げ計画に対する追従状況の分析なども可能です。在庫分析もアイテム毎の在庫金額や在庫日数による分析が出来ます。
長く生産管理の仕事をしている方なら、今でも記憶にあると思います「日本坂トンネルの火災事故」、最近では「中越沖地震のピストンリング」など、突発的な事故や災害による生産遅れ、部品の納入遅れは、何をヤッテも防ぐことは出来ません。むしろこれは「リスク管理」というような考え方で対応するべき問題かと思います。
一方、日常の中で発生する遅れは「トラブルを早く予見し、早く対策をする」以外に解決の道はありません。日常発生する遅れには、外部要因による遅れと、内部要因による遅れがありますが、いずれにしても巧く取り組まなければ、出荷遅れを引き起こしてしまい、顧客に迷惑をかけてしまうことは明らかです。
もし遅れの要因が生産管理業務寄りのものであれば、TPiCSで多くを解決することが出来ます。
①外部要因による遅れ
サプライヤーさんの遅れを無くすためには、はじめに発注する側が作っている遅れの原因(無理な注文)を無くして、納期を守れるような発注を行うことが必要です。
TPiCSでは、「■短納期生産に対する誤解」で書いたように「部品や材料は必要なタイミングで発注する」こと、「生産の変動に対する備え(バッファ)」の機能を利用することで、サプライヤーさんの生産を“かき回す”ことのない発注を行うことが出来ます。
また、TPiCSの「予定・遅れリスト」は遅れを予防するという意味で重要な役割を果たします。例えば、毎週金曜日に、納入予定日が来週に迫った注残を、ボタン一つで全てのサプライヤーさんにメール送信したり、印刷したりして予定を確認してもらいます。その時、もし既に遅れているものがあれば、当然「遅れ分」としてリストに掲載されます。
しかしながら、どんなにこれらを心がけ、実行したとしても、遅れが無くなることはないでしょう。そして遅れがあるとするならば、計画管理という観点で説明したように、納期延伸の連絡など、常に生きた情報を得られる様にして、出来るだけ早くリスクを予見します。
サプライヤーさんから納期延伸の連絡があった時は、まずその遅れが現在の計画に影響を及ぼすか否か、何をどれだけ調整しなければならないかを知らなければなりません。製品の計画を後の日にずらす場合には、その日の生産量を下げたくありませんから、代わりに生産できるものを探します。何を作れるのか、いくつまでなら部品があるのか、TPiCSを使えば、それらについてシステムの中でシミュレーションしながら答えを見つけることが出来ます。これにより、遅れが発生したとしても、その影響を最小限に止めることが出来るのです。
念のため説明しますが、もちろんむやみに納期延伸の連絡を受け入れて良いわけではありません。「計画を守る」こと(サプライヤーさんに納期を守らせる体制作り)は、生産管理を行う上でとても大切なことです。
とはいえ、本当に出来ないものは仕方ありませんから、出来るものの中から現実解としての生産計画を考えていきます。
②内部要因による遅れ
(A) 能力以上の受注見過ごしによる遅れ
(B) 計画反映漏れ、手配ミスによる遅れ
(C) 現場への指示不徹底による遅れ
(D) 設計ミスによる遅れ
(E) 設備、治具、型のトラブルによる遅れ
(F) 出勤率低下による遅れ
(G) その他
原因となることを幾つか挙げると、「システムで管理する」だけで解決するものと、解決しないものがあります。(A)(B)(C)に関しては、システム化により防止できるものです。また、もし遅れが発生した場合も、外部要因による遅れと同じように実行可能な挽回計画を素早くたてることにより、影響を最小限に止めることが出来ます。
但し、もしシステムのデータがデタラメなら、ここでもそれは役に立たないことになります。
「在庫は全ての生産活動の結末」といわれるように、在庫に影響を与える要因は多数あります。しかし、いくらその要因が多いからといって原因を分析せずに答えは出せませんから、先ずは在庫の発生原因を分類し、その上で在庫縮小を考えます。
まず、
・見込み違いや手配ミス、あるいは設計変更などによる「不良在庫」
・日々の生産活動の中で自然発生する「運用在庫」
・変化に備える自衛の為の在庫
に分けます。
●「不良在庫」を減らすためには「予測精度を向上する」あるいは「手配ミスを撲滅する」ことが必要です。その対策として「多次元解析のシステムを使って計算する」や「確認作業や重要な事柄に関してはダブルチェックを実施する」等が考えられますが、それらの対策をどんなに熱心にやっても、未来を100%予測することは出来ないし、ミスを全く無くすことも出来ないでしょう。
世界がグローバル化され、マーケットを動かす要因は増えることはあっても減ることはありません。
また、要求される品質基準や、安全基準は、今後上がることはあっても下がることは無いはずです。その為の設計変更は今後益々増えるでしょうし、またコストダウンの為の設計変更もこれからも続くことでしょう。
これらのミスや予測違い等“あって欲しくないこと”が決して無くならないのなら、“あって欲しくないこと”が発生したときの被害を最小限に止めるようにするのも重要な答えです。
またそれこそが生産管理の真価が問われるところです。これを実現するためにはスピーディーなものづくりを行うことが必要です。部品材料の調達期間を短縮し、調達ロットサイズを小さくすれば、部品や材料の不良在庫を少なくすることが出来ます。製品生産も同様に製造期間の短縮やロットサイズの圧縮により製品の不良在庫を少なく出来ます。何かの問題が発生した時、3ヶ月先まで発注していれば3ヶ月分の部品が不良在庫になってしまう可能性がありますが、1ヶ月先までしか発注していなければ1ヶ月分の不良在庫に止まります。企業活動の中で「速い」ということは「百の問題を解決する」と言えます。
●運用在庫を少なくするのも「速さ」です。
「ものが工場に入ってから工場を出るまでの全てのものが在庫」ですから、在庫を少なくするためには、入りから出までの期間を短くします。部品や材料が納品されても、全て揃うまでは着手できません。着手しても不良や手直しがあればスムースに工程が進みません。段取り替えに時間が掛かれば、製品が出荷されるまでの工期は長くなります。不要に滞留があれば、工期は長くなります。全ての作業の結果が工期であり在庫です。
TPiCSでは運用在庫を「納入リード日数・製造リード日数」と「ロットサイズ」でコントロールします。それらの値を小さくすれば運用在庫を圧縮することが出来ます。
「計画管理」が実現出来ている状態だと、これらの設定を小さくしていくとそれ以上小さくできなくなる臨界点が見つかります。するとそこが在庫縮小の為のネックですから、それを改善していきます。
●一般的な生産管理システムには、直近の計画が変わったとき手配済みの部品や材料の計画を引き当てながら計画を再計算する機能が無いため、手配担当者が「勘と経験」そしてある時は「度胸」で、いわゆる必要数に上乗せをして発注します。言うまでもなく「勘」が外れれば不良在庫になるし、少なければ、変化に対応出来ません。「勘と経験」に頼る仕事は、冷静に考えれば本来あってはならない「仕事のやり方」の筈ですが、一般的な生産管理システムの制約から、そのような運用方法がどの製造業でも認められています。ある意味では「勘」の善し悪しが、仕事の評価の対象であったりする訳です。
TPiCSには「設定されたバッファで変化に対応する」という機能があり、マスターを設定しておけば、所要量計算の中で自動的にバッファを確保し、また変化(内示と確定の差、或いは急な注文など)があった時には、それを利用して計画を立て、変化をバッファで吸収することが出来ます。
またそのバッファは、「基準在庫改善」機能により、常に設定値を適正に保つことが出来ます。「勘や経験」に頼る仕事ではなく、システムで管理された仕事に変えることにより無駄な在庫を減らし、なおかつ変化に対応出来る工場にしていきます。
世の中の変化が速くなり本当に売れる期間が短くなりました。販売チャンスを逃さないため、1日も早くフル生産できることが必要になりました。試作図が出され、手配をして試作品を作る。それを何回か繰り返し、量産試作、量産へと繋げていく。その間も図面の変更は絶え間なく繰り返されます。
当然のことながらこの問題は、設計開発、生産技術など、生産管理以外の要素の方が大きい訳ですが、このような問題の中で、TPiCSをどのように使い、「垂直立上げ」に近づけていくかをご説明していきましょう。
ポイントを二つ挙げます。
①設計上の製品構成情報(E/BOM)を、生産管理の製品構成情報(M/BOM)へ、設計変更も含め変換する機能
②試作も、繰返し生産もTPiCS一つで管理する
です。
■CADやExcelで持っている設計上の製品構成情報(E/BOM)を、生産管理の製品構成情報(M/BOM)へ、設計変更も含め変換する機能
●TPiCSの「構成情報変換変換オプション」は、設計用の製品構成情報を生産管理用の製品構成情報に変換します。
設計部門がCADやPDM、Excel の部品表で作成した構成情報をCSVファイルに書出し、TPiCSが読込み、生産管理用の製品構成情報に変換します。
一般的に設計上の構成情報(E/BOM)と、生産管理用の構成情報(M/BOM)は異なるものとされています。
例えば、パソコンを生産するとしましょう。
設計者は電源スイッチを電源回路の子部品として扱うだろうと思います。
ところが、電源スイッチはフロントパネルに組み込まれていて、実際に生産する時は、協力会社さんに「フロントパネルAssy」として発注し、組み立て工程で、電源回路から伸びてくるリード線と繋げます。このような作り方をする場合、生産用の構成情報では電源スイッチはフロントパネルの子部品にします。
これら構成の変更は、構成情報変換変換オプションの画面の中で、ドラッグ&ドロップをするだけで簡単に行えます。生産用の構成にした後、TPiCSのマスター(製品構成表、アイテムマスター)へ取込みます。さらに単価や発注先、ロットサイズなどを追加すれば、新しい製品として所要量計算することが出来ます。
これらの機能は新出図面を変換するだけなら、システム開発もそれ程難しいものではありません。しかし、設計変更の情報まで扱うようにすると、急にシステム開発は難しくなります。電源スイッチが設計変更になりSW1からSW2に変わったとします。設計上の変更情報は「電源回路の子部品の電源スイッチSW1をSW2に変えろ」という情報です。
ところが生産用の構成上では電源回路の下に電源スイッチはありません。とにかく「SW1」を見つけて「SW2」に変更すれば良いようにも思えますが、実際にはそうはいきません。パソコンの電源スイッチのように1カ所でしか使用されない場合や、複数箇所で使われていても全てが変更される場合は、問題有りませんが、同じ部品が複数箇所で使用される場合は、どこで使用されている部品が変更されたのか特定出来なくなってしまいます。
TPiCSの構成情報変換変換オプションは、両方の構成情報を一つのテーブルに持つことにより、構成情報が変わっても設計変更を生産用の構成情報に反映することが出来ます。
■設計変更を生産情報に最適なタイミングで反映する
●では次に、その設計変更をどのようにして生産に反映するかを考えます。
個別生産の場合は、受注ごとに細部の設計変更となることが多く、製番によって製品から部品まで結びつけて管理されます。TPiCS でも製番管理やプロジェクト計画管理で製番をキーにして既に手配されているものとダイレクトに照合し、キャンセル伝票を発行したり、追加の指示書を発行したりで対応します。
しかし、繰返し生産の場合は、受注の前に先行して材料手配が進み、必要量と納期のみ計画が立つので、設計変更の反映は生産時期を指定して行います。これには予め関連する部材の手配が必要なことや、旧部品の発注の停止や、共通使用する製品への考慮など、計画の段階でタイミング良く行っていくのが必要です。TPiCS では製品構成の開始日や終了日を指定することで、開始日で指定された生産から新部品に切り替えた計画で準備することができます。
設計の変更以外にも、生産の構成情報の変更は至るところで起こるため、システムとしてもそれらを処理できなければなりません。
・在庫及び既に手配されている分を使い終わった時から新部品に切換える(ランニングチェンジ機能)
・図面に記載されたスペックを充たす他のメーカ部品を使う(発注ロット数や緊急時に発注先変更機能)
・協力会社の生産負荷を見越して一時的に加工委託先を変える(作成された計画明細の発注先変更機能)
・食品の塩加減のように時期(季節)により使用量を変える(開始・終了日を指定した構成)
・ある一定期間だけ異なる部品を使用し、その期間が終了したら元に戻す
・部材の在庫量や入手状況から高グレード品に代替して生産する(代替生産機能)
・完成後の変更依頼により製品を改修する
・設計は同じでも社内生産と協力会社での生産で構成や手配方法が変わる(製造場所による構成変更機能)
・お客様が選択したオプションで生産する(受注仕様生産機能)
これらの変更も、設計変更と同様に変更が決まったときに即変更して手配ならば、まだ容易ですが、生産に滞りなく、不要な在庫を極力減らしつつ、タイミングよく、漏れなく生産情報に反映していくのは、思った以上に難しいものです。
■試作も、繰返し生産もTPiCS-X一つで管理する
繰返し生産が主でも、試作品の段階では一品ごとに仕様がことなっていたり、場合によって急遽一部の設計を変える必要がでてきたりします。そうすると個別に完成までの進捗を追いかけるこができる管理が必要になってきます。
TPiCSは一つのパッケージの中で繰返し生産を主とした機能と個別生産を主にした機能(詳細は「個別生産編」)の両方があります。試作の段階は個別生産(製番管理)をし、量産になったら繰返し生産(所要量計算)として管理することができます。
個別生産の機能を使わず、繰返し生産機能で試作を管理する場合は、試作で手配したものは量産の所要量計算で引当てられては困ります。逆には、旧モデルと同じ部品の場合は、試作の分も一緒に所要量計算して注文書を出したい時もあります。
TPiCSの中には、“所要量計算の引き当てから除外する”という機能があり、試作で使用する部品を“引き当てから除外する”扱いにしたり“引当てる”扱いにすることが出来ます。その設定は完成前の段階でも、在庫になった後でも指定することが出来ます。
試作の段階から量産と同じシステムで管理すると「試作をしながら量産のマスターのチェックも出来る」ことになり、速やかな量産の立ち上げを実現できます。正しいマスターを整備するのは、立ち上げ時期の変更が多い中、とても大変な仕事です。一歩間違えれば、部品の欠品が起きる、あるいは不要部品を手配してしまう。傾斜立ち上げなら、誤手配の影響も小さなもので済みますが、垂直立ち上げになると、被害も大きくなります。
■生産管理の難しさや大変さの本質は「変化・変更」にあります。
想像してみて下さい。半年前から何を幾つ作るかが決まっていて、仕様も全て決まっていたら、生産管理の仕事はどんなに簡単なことでしょう。
「変化」とは「数量と時期の変化」と「仕様の変更」です。
「数量と時期の変化」は、f-MRPを中心にした計画管理の考え方で解決しますが、「仕様の変更」に関してもTPiCSは答えを持っています。そして実際には、「数量と時期の変化」と「仕様の変更」が、交ざり合い混沌とした状態で押し寄せてきます。TPiCSはそれらを当然のこととして処理することが出来ます。
TPiCSを使って、生産管理の仕事を、速く、正確に、そして楽にして頂きたいと思います。