▲ベッセル島根のみなさん

株式会社 ベッセル島根

製品原価の把握や納期管理で効果

さらなる精度の向上を狙う

ドライバービットメーカー、ベッセル島根のTPiCSを活用した生産管理システムが着実に前進している。20年前に初めて導入して以来、紆余曲折を経験したが、関係者全員の努力によって難局を乗り越え、今では過去の履歴や工程の進捗状況が見える化され、顧客に対する納期回答も瞬時に行えるようになった。今後も、導入当初からの目標であるきめ細かな原価管理や納期管理の実現に向けて、さらなる努力を続ける考えだ。



電動ドライバー用ビットを生産

 ドライバーの総合メーカー、ベッセルグループ。創業は1916年で、国内で初めてドライバーを量産して以来、今日でも「ファスニングツール(締結工具)のリーディングカンパニー」として高い知名度を誇る。㈱ベッセル島根の設立は1974年。電動ドライバーの先端に取り付けるスクリュードライバービット(以下、ビット)の需要増を背景に、ベッセルグループの一員として、ビットの開発・生産の拠点として発足した。

現在、ビットの生産は、島根県仁多郡にある仁多工場(本社)と横田工場の2つの工場で行われている。

 生産品は大きく2つに分かれる。1つは規格品(標準品)であり、もう1つは顧客仕様でつくる別注品である。販売先はホームセンター向けと企業(工場)向けの二通りあり、共に㈱ベッセル流通センター(大阪府大東市)に経由し、そこから出荷される。

 強みは、自動機(自動製造機械)や工作機械を豊富に取り揃え、顧客のさまざまな要望に対応できることと、物量の多さ。また、開発力にも定評がある。ひと口にビットと言っても、機能別にさまざまな種類があるが、両端に刃先が有る「両頭ビット」や、ビットの真ん中を細くして疲労を減らし長持ちさせるように工夫した「トーション」など、同社が業界に先駆けて開発した製品は多い。

2017年には高い硬度があり、さらに10色に色分けされた「剛彩ビット」という新シリーズも開発した。開発コンセプトは「独創性」。「形状や材料を変えることは、従来から行ってきましたが、それだけでは見栄えがせず、インパクトも小さいので、思い切りよく色分けして他社製

品との差異化を図ったものです」と取締役工場長の米澤友章氏は話す。

 ▲ 横田工場内部

         ▲同社が開発したビット

 ▲ 取締役工場長の米澤 友章氏


初期導入に失敗。2年後に再構築セクション

 ▲ 品質管理係主任の石原 幸則氏

     ▲ TPiCSの画面

 その一方で、生産管理面ではさまざまな課題を抱えていた。取り扱うアイテム数や生産量が多く、規格品や別注品もあるため、工程進捗や納期管理、個別の原価計算などに手を焼いていたのだ。現在のアイテム数は、流通センターに在庫を置くもので約1200種。別注品を入れると、その数は3000種以上に膨れあがる。2000年代初めまでは、それらを手書きとエクセルで管理していた。紙に履歴を記載しておき、リピートが来るとファイルをめくって図番を調べる。そして図面をコピーして現場に製造指示を出すというやり方だった。

 しかし、それでは生産管理にはならない。特に経営層が問題視したのは、生産品全体の売上と製造原価は分かっても、製品ごとの標準原価と実績原価、さらにはそれらの差異などが把握できなかったことだ。当時、ベッセル島根のTPiCS導入担当だった品質管理係主任の石原幸則氏は「リピートが入ったら、過去の履歴をもとにしっかりとモノづくりすることはもちろんですが、その製品の原価と売上、販売量がきちんと把握できないと、どれだけ利益を上げている製品なのか分かりません。これは、次の設備投資の方向性にも関わることなので、それを重要視したのです」と話す。

 こうした中、2002年にトップの指令によりTPiCSバージョン2.2を本社工場(仁多)に導入した。市販の生産管理システムの中でも、TPiCS が最もコストパフォーマンスに優れ、同社の管理形態にマッチした製番管理機能をサポートしていることが決め手となった。

 しかし、最初は上手くいかなかった。運用構築を自力で行おうとしたが、知識不足もあって、初期のマスター登録でつまずいたまま頓挫してしまったのだ。ようやく動き出したのは2年後の2004年。SI会社の㈱ケイズに依頼し、運用再構築のサポートを受けるようになってからである。


本格稼働、その一方で新たな課題も

 TPiCSを動かすにはマスターをつくることが必要だが、同社には紙のデータしか存在しなかった。それでも、エクセルでつくられたマスターも存在したので、そこからデータが起こせるものは活用し、ないものは手入力でTPiCSに取り込むという地味な作業からスタート。その後、運用トライを繰り返しながら、約1年かけて本格稼働にこぎ着けた。

 2007年には生産の進捗や作業時間の収集を強化するため、ハンディ端末を導入した。ちなみに現在は各部署でのパソコン入力となり、ハンディ端末を使うのは受入作業くらいになっているが、ひと頃は十数台使用されていた。また、ハンディ端末の導入と並行して、製品ごとの加工費も明確になった。さらに、受注から出荷まで流れがスムーズになるなど、TPiCS の運用は、着実に前進した。

 2010年には横田工場にもTPiCSを導入した。2つの工場のうち、片方が相変わらず手書き中心の管理だと、会社としての管理効果が半減しかねないので、仁多工場での経験を横展開することにしたのだ。

 しかし、そこで新たな問題が持ち上がった。仁多工場と横田工場は同じTPiCSとは言え、システムは別々でデータベースも独立していたので、管理が複雑だった。従来、仁多工場は小口の別注品が中心で、横田工場は規格品の大量生産が中心だった。それが、2010年代になると2つの工場間で生産の流れが変わってきた。2020年には、仁多工場に替わって横田工場がメイン工場になった。仁多工場から横田工場へモノを動かして加工したり、その逆があったり、生産工程の中での行き来が頻繁になったのである。

 問題は、2つの工場がマスター連係のない状態で別々のやり方でモノを行き来させるので、モノは動いてもシステムの動きが阻害されたことだ。しかも、注文はどんどん入るので、工場間の進捗管理や原価が正確に追えない状況下での生産となった。「それでも、工程を動かすことは可能でしたが、経営層が言われるような原価集計や利益性の観点からは外れてしまったのです」と生産管理課長の糸原徹氏は当時を振り返る。

 ▲ ハンディ端末

 ▲ 生産管理課長の糸原 徹氏


システム統合により大きく前進

 これらの問題をクリアしたのが2017年のシステム統合である。両工場のサーバーを廃止し、クラウド上のデータベースに一本化。マスターの改変を含め、改めて運用ルールを決めた。「TPiCSの良いところは、過去の何万という工程履歴が蓄積できるので、リピートが来たときに対応しやすいことです。ただ、システム統合前は、原価集計や棚卸しにしても、2工場のものを持って来て合算しなければならず、苦労しました。システム統合された結果、二重作業がなくなり、経営層の求めに対してもデータ類を即座に出せるようになりました」( 糸原氏)。

 顧客に対する納期回答も素早くできるようになった。規格品を製造しているときに、別注品が入ると、それらを絡めて製造することが必要となる。「従来は、これが入ってきたので、『今はこのあたりをやっているのだろう』といった感覚的な判断しかできませんでしたが、TPiCSの情報から、状況判断がしやすくなったのです。以前は出荷日の直前になって『納期通りに納めることはできません』と連絡することは少なくありませんでしたが、それもなくなりました」(糸原氏)

見える化&見せる化

 2022年6月にはTPiCS4.1にバージョンアップ。データ処理のスピードがさらに向上し、情報の「見える化」が進んだ。ただし、納期遅れについては、システム以外の問題も多く、以前と比べれば減少したものの、現状でも完全に解消できているとは言えない。原価管理についてもしかりである。

 同社の生産管理の関係者らは「標準原価と実績原価の精度を今以上に向上させる必要がある」と異口同音に語る。「当社の現場社員は皆、よくやってくれてはいますが、仕事に追われると入力業務が後回しになることがありがちなのです。しかし、そこで間違えてしまうと、システムそのものの信頼性が落ちてしまいかねないので、システムに対する理解を深めてもらうため、もう一度ルールを徹底させたいと思っている」と関係者らは言う。

「私の立場からは、かつては『原価の一覧表を見せてほしい』と担当者に言うことすら抑え気味にしていました。手書きで一生懸命つくらないとできないことが分かっていましたから。しかし、TPiCSを入れてからは、元データがあり、加工もしやすいのでお願いしやすくなりました。これからはもっとお願いしたいと思っています。また、当社には訪問客が多く、それが営業につながることも少なくありません。社内向けの情報のさらなる『見える化』と併せて、外部に対する『見せる化』のツールとしてもTPiCSを活用していきたい」と米澤氏は語っている。

                                     ▲ 作業風景


会社概要

株式会社 ベッセル島根

▲横田工場外観

代表者 田口 二郎
本社 〒699-1513 島根県仁多郡奥出雲町三沢103
横田工場 〒699-1822 島根県仁多郡奥出雲町下横田1093-1
 TEL.0854-52-2508 FAX.0854-52-2557
創業 1916年(ベッセル工業)
設立

1974年

社員数 104人(単体)600人(グループ全体)
資本金 3000万円
URL http://www.vessel.co.jp/

主な製品例


導入システムインテグレータ

株式会社ケイズ

お客様のビジネスパートナーとして、業務改善に向けた

付加価値の高いITソリューションを実現致します。


〒700-0024 岡山県岡山市北区駅元町15-1 リットシティビル7F

TEL:086-259-0921
MAIL:inoue@kscom.co.jp

担当営業:産業第二営業部 井上 智行、寺本 幸司

http://www.kscom.co.jp