現場指示と平準化(着手信号機オプション)

TPiCSレポートNo.68から抜粋
前回(No.67)のレポートを発行してから「なんとかこの問題を解決出来ないか」と、一生懸命考え、私なりの答えを見つけ、その機能を早速TPiCS-X Ver3.0へ織り込みました。
TPiCSの仕事を20年近くやって来ましたが、今回の機能追加は、TPiCSの歴史の中で、また一つエポックメイキングな仕事だと思っています。
はじめに、解決しようとした問題そのものを簡単に説明します。
TPiCSに限らず、新しく生産管理のシステムを使うとします。生産管理のシステムを使うということは、その指示に従って部品や材料を発注し、生産するということです。
システムの指示に従って生産する場合、出された指示(計画)の日別の作業量が平準化されていない状況を考えます。例えば、今日は10,000個、明日は100個生産しなさいと言われると、今日は徹夜で仕事をするが、明日は昼過ぎには仕事が無いことになってしまいます。実際にものを作る現場はこれでは困るので、現場から「どうすればいいのだ」と言われてしまいます。
この問題を解決するためには、「平準化された計画を作る」、あるいは「資源(人員能力や設備など)の割付を考慮した計画を作る」ということになります。
しかし、それは非常に難しい仕事です。
①TPiCS-Xには、自動平準化オプションがあるので、ある程度平準化した計画を作ることが出来ます。しかしそれは、完璧なものではありません。
②TPiCS-Xにはスケジューラと連係する機能があります。しかし、実際にはスケジューラの運用もなかなか難しいようです。
③最もベーシックな解決策として、生産計画を人手で平準化します。TPiCS-Xは、計画表の中でもドラッグ&ドロップで計画日を進めたり遅らせたり出来るので、かなり操作性は良くなっていますが、それでも工程が深くなり、さらに共通の工程が有ったりすると大変な作業になります。
④次の解決策が、前回のレポートの話の「現場にまかせる」です。「現場の裁量で調整してもらう」ために、確定期間を長めにして運用しますが、それによる悪影響も大きなものでした。
⑤最後の解決策も、前回のレポートにありました「システムとは違う計画で生産する」です。システムは部品手配にだけ使い、現場への指示は別の計画でおこないます。前回のレポートのケースはTPiCS-Xの計画対応実績と在庫対応実績の機能を誤用し、おかしな結果になった例でした。
いずれにしても、解決は難しく生産管理システム運営の現実的なネックでした。
何とか解決する道はないか。簡単なロジックで実用になる方法はないか。100点とれなくても良い、80点でよいから、簡単な解決策はないか。だれでも考えそうな方法では、答えが出せないのだから、全く違うアイディアはないか。一生懸命考えると、ハッとヒントが頭の中に浮かぶものです。
まず、私の解決策のポイントをご説明します。
現場は生きています。時々刻々変化する状況をシステムに取り込み、その中で各工程の平準化され整合性を持った計画をリアルタイムに計算し、指示するのは非常に難しいです。
逆に、現場の方は、とにかく「今日、何をどれだけやれば良いか」が判れば良いわけです。なにも“箸の上げ下ろし”を決めてくれと言っているわけではありません。「今日、何をどれだけやれば良いか。今何が出来るのか。今日やる仕事の中で出来ないものがあれば、それはなぜ出来ないのか。いつならできそうなのか。そして何を急ぐのか」が分かればいいのです。欲しい情報を提供しさえすれば、あとはその時その時の状況で判断してくれます。
ここまで考えが整理できれば、あとは簡単です。
TPiCS-Xには着手信号機オプションがあります。
そもそも着手信号機は、「今日、何をやれば良いか。今何が出来るのか。今日やる仕事の中で、出来ないものがあれば、それはなぜ出来ないのか。いつならできそうなのか。そして何を急ぐのか」の情報を明示する為のものです。今の着手信号機に無いのは「今日やらなくてはならない生産レベル(ノルマ)を明示する機能」だけです。
では、どうやって生産レベルを計算し表示するかの説明に移ります。
平準化できていない生産計画を平準化したとすれば、平均値の作業時間になる筈です。生産する順序があれば、平準化すると、その順序のまま計画日がずれることが望ましい訳です。この平均値を生産レベルと考え、生産レベルに達する作業を、優先順位の順に、かつ着手可能な作業だけを選択すれば、それがノルマになります。これをリアルタイムに現場に指示できれば、目的が達成されることが分かります。
向こう何日間の平均値を取るかは、ユーザーにより異なります。私は、今の時代、一週間サイクルが適当だと思いますが「組合との関係で、一ヶ月間は平準化したい」 というユーザーもあるかもしれません。
[システム環境設定]-[業務処理方法]-[着手信号機]の「製造担当ごとの生産レベル集計期間」で、平準化期間を設定できるようにしました。
そこで、以降は一週間サイクルで生産レベルを決定する運用を前提にして説明します。

①現場の要所要所にパソコンを置き、TPiCS-Xの信号機を使えるようにします。
信号機の画面の中には、各現場のオーダーリリースされた生産指示データが表示されます。
②事務所で、毎週金曜日に、現在の生産計画から、来週の作業量の平均値を計算します。
③各現場の信号機の画面で、[仮数]ボタンにより、
生産レベルに見合う分、作業指示データの仮数フィールドに生産数量が書き込まれます。
④仮数には、前工程が途中までしか終わっていない、あるいは全部品が揃っていないときは、生産可能な数量が書き込まれます。
⑤また、午前中の仕事を終え、午後になってから、もう一度[仮数]ボタンをクリックすると、午前中に終えた仕事の分は差し引いて、残りの生産レベルに相当する生産数だけが仮数に書き込まれます。
⑥仮数を埋める順序は表示する順序に従いますが、表示順を自由に決めることが出来ます。そして信号機は、ソートするキーの値を後工程が操作することも出来ます。(後工程から未完の前工程に伝言を送る機能)
⑦昨日以前の仕事で、残っているものがあれば、赤色表示され、明日以降の仕事は紺色表示されます。
⑧さらにこの機能は、Ver3.0で追加された「払出し管理」の機能と連動しますから、現場に払出しされた部品の数を元に、着手可能数を計算することが出来ます。

生産レベルの集計方法に関しもう少し、説明を加えます。

①生産レベルは、現在の生産計画から計算します。
在籍する作業人員から計算するのではなく、必要とされる生産計画から計算します。
もし、人員能力が不足するなら、他の部署に応援を頼みます。それが出来なければ、生産計画を修正します。つまり、来週の計画から、翌々週の計画へ移動します。後ろにずらすことが出来ないなら、残業をするか、徹夜で生産するしかありません。
②逆に、仕事が少ない場合は、今流の考え方は「注文が無いのだから、無駄なものを作ってもしょうがない」です。他の部署に応援に出るとか、機械や設備の整備をするなど となりますが、現実的にはそうもいかないと考えるなら、集計した生産レベルを調整し、かさ上げします。これは誰かが意志を持ってやらなければならない仕事です。
③今週の生産が既に遅れている場合。
例えば、金曜日の時点で本日中に挽回できない遅れがあれば、来週の生産レベルに挽回代(しろ)を用意しなければなりません。
集計した来週の作業時間は、製造担当マスターの中に書き込まれますが、直ぐ隣に今週の作業時間と本日の残りの作業時間が表示されるので、残りの作業時間が大きければ来週の作業時間を少し大きくしておかなければなりません。
この仕組みをご理解頂くと、元々の生産計画が平準化されていないと、結果として遅れ進みが発生するのが分かります。平準化の誤差も、遅れ進みも、0にすることは出来ません。要は、遅れ進みの許容限度と平準化の度合いのバランスです。
その他、着手信号機を使うと、例えば「同じ型を使う場合は纏めて生産したい」とか、「赤から黄色へ変わる場合より、赤から白へ変わる方が効率がよいので・・・」という問題も、従来とは全く違う方向で答えが出せるなど、着手信号機には、まだまだ沢山の機能がありますが、説明の焦点がぼやけるので、「現場への指示と平準化」に関する説明だけに止めます。
以上が、TPiCS-X Ver3.0の着手信号機で実現した「現場への指示と平準化の問題」に対する答えです。