手前2週間を仮固定しながら生産計画を作る方法

TPiCSレポートNo79から抜粋
■ 前回のレポートでも「即納体制、短納期生産について」と称して、今回と同じようなテーマで書きました。
 しかし、多くの方から「難しくて分からなかった」と言われてしまいました。
 「お客様のニーズに沿った生産」をしながら「計画生産」をし、それを出来るだけ少ない在庫で実現するということは、“システム”とか“狭義の生産管理”という次元の問題ではなく、「お客様の望むものをいかにして速く作るか」という非常に重要な問題だと思っていますので、今回 もう少しかみ砕いてご説明したいと思います。
 前回のレポートで生産管理について考えると「どのようにして計画を作り、メンテナンスするか」は非常に重要だが、生産管理システムを検討なさる方が、その点にあまり興味をお持ちでないことが多いようです、と書きました。「原価」に関してはうんざりするほど質問を頂きますが、生産管理システムを検討なさる方が、例えば「お客様からどのようにして注文が入るか」を良くご存知なかったりします。
 一般的に「生産管理システム」に期待されるものと、TPiCSが提供しようとしているものが違うような気がします。弊社も株式会社で、一応営利を目的とする企業ですからお客様が望むものを作って売れば良いのですが、私自身「そんなものを作ったってしょうがない」「使ったって問題解決にならない」と思う気持ちの方が強く、なかなかその気になれません。
しかし目の肥えたユーザーには分かって頂けるので、それを心の支えに細々とTPiCS流のビジネスを続けています。
「段取り八分」という言葉があります。私はこの言葉が好きでよく使います。
言うまでもなく「仕事の成否は段取りで決まる」ですが、「段取り」を「計画」に置き換え、「生産計画の善し悪し」が「生産」の善し悪しを決めるという言い方をします。
 しかし、なぜか計画作成機能があまり重視されない。その理由を考えてみます。
 一般的なMRP系システムの場合、“マスタープラン”を人間が作成し、それをシステムにインプットし、所要量計算します。つまり一般的な生産管理システムには、システムを使って製品の計画を立てるとか、システムで生産計画を作る機能が無い(あるいは弱い)ため、ユーザーが生産管理システムに期待しなくなってしまったからではないかと思っています。あるいは、「システムでは無理」あるいは「そこは人間が考えるところ」と思い込み、システムに期待しないのでしょうか。
 今回のレポートでは、是非「TPiCSってこんな使い方が出来るんだ」あるいは「漠然と考えていたことが実現できそうだ」と気付いて頂きたいと思います。
弊社はパッケージメーカーの為、常にいろいろな生産状況を想定して考えます。説明するとき汎用性を意識しすぎると分かり難くなってしまいます。また、生産管理の話しはどうしても長くなりがちで「風が吹くと桶屋が儲かる」的な話しになってしまいます。
 またTPiCSの成り立ちそのものが、初めから私の頭の中にあるものを絞り出し、汎用パッケージとして開発しました。どこかのユーザーの管理方法をシステム化し、パッケージにしたものではありません。その為、システム全体がいろいろな考え方や見方で使って頂けるようになっています。そこいらへんがTPiCSを難しく感じさせている要因の一つかとも思います。

■まず販売計画と生産計画の関連から考えていきます。
 そもそも「販売計画」と名の付いたものが存在する企業と無い企業があります。販売計画がある企業でもその精度が良い企業(ケース1)も、悪い企業(ケース2)もありますし、販売計画なんて無くても過去の経験からおおよその見当が付く企業(ケース3)と、どんな注文が入るか全く分からない企業(ケース4)があります。
 また販売計画を考える場合、計画期間の長さや、平準化の度合い、メンテナンスされるサイクルなども考慮に入れなければなりません。
ケース1で、十分な期間があれば生産計画を作る場合、大いに参考にしますが、ケース4の場合、あるいは計画精度が悪く当てにならない場合や、あっても非常に短期間しか計画が無い場合は、その情報を利用するのは難しいです。
今回のレポートでは説明をシンプルにするため、ケース4で、かつ即納しなければならない場合を考察の対象にします。
 この説明を理解し、またTPiCSの機能を理解すると、TPiCSの所要量計算の最も大事な考え方を分かって頂けるようになり、「お客様のニーズに沿った生産」を行いながら「計画生産」をするという相矛盾する要求をかなえる具体的な方法を理解して頂けます。

■この用途を前提にした、TPiCSの所要量計算の運用方法をご説明します。
TPiCSの所要量計算は、製品の生産計画を仮固定しておき、日々受注データを登録し、所要量計算することが出来ます(実は「製品」に限らず部品でも中間製品でも仮固定することが可能で、それはTPiCSの所要量計算の中でも非常に重要な機能ですが、それを書くと説明が分かり難くなるので、今回のレポートではそのような記述を出来るだけ省くことにします)。大量の受注が入り仮固定された生産計画ではお客様の要求を満たせない場合や、受注が急に止まり在庫が設定した値を超える場合、リストにして教えてくれます。
不足や在庫過多が分かったら、平準化や段取り等を考慮して生産計画を変更し、再計算をします。

また、TPiCSの所要量計算は、受注した数量と同数の計画を、仮固定した期間が終了した翌日に立たせることが出来ます(ここが少し分かり難いと思いますが、詳しい説明は後述します)。所要量計算の結果を得て本日の伝票を発行し、確定処理を行うと、その計画数のまま仮固定期間が1日伸びます。これを1週間続けると翌々週に平準化前の生産計画が出来ます。毎週金曜日に、翌々週の計画の平準化や段取りの調整を行い生産計画とします。
 同時に、必要に応じ翌週の生産計画を見直すことも出来ます。
 翌々週の計画を調整するとき、各製品の週の合計値を変えないようにすれば、常に今週注文が入った数量だけ生産する計画を作ることが出来ます。この計画立案作業と同時に操業度の調整もすることが出来ます。つまり今週注文が沢山入りすぎて翌々週1週間では生産できないなら、次の週に繰り越さなければなりませんし、少なすぎるなら売れ筋の商品を多少多めに作らざるを得ないかも知れません。それらは経営の意志決定を経て計画に織り込みます。今週の処理で、翌々週多めに計画を立てても、次の週ではそれを差し引いた生産計画が立つので、在庫を注意深く見ていなくても在庫に偏りが生じることはありません。
 製品の生産計画を作ったら2回目の所要量計算をします。1回目の所要量計算は製品レベルの計算で止め、2回目は中間製品や部品まで計算を行います。
TPiCSは指示書を発行しなければ何度でも再計算することが出来ます。
このような運営をすることにより、「お客様のニーズに合わせた生産」をしながら「計画生産」を出来るだけ少ない在庫で実現することが出来ます。

■簡単な「運用の前提」を決めて、具体的な設定及びシステムの動作をご説明します。
①生産計画は週サイクルで(毎週金曜日)更新するとします。
②内示や販売計画は無く、日々入る受注をベースに所要量計算するとします。

③本日受注する出荷予定は、今日・明日出荷とします。
④手前2週間は計画生産を行い 第3週目の計画に売れ行きを反映するものとします。
⑤製品の作業指示書は明日分の指示書を発行するとします。
⑥代表として取り上げる製品は、平均10個/日受注が入るとします。
(これらのことを考えるときは、初めは本当に毎日10個出荷するように考え、次にそれが日々変化した場合を考えます)
⑦当初その製品の在庫が5個有ったとします。
⑧取りあえず、ロット纏めしない前提で考えます。
⑨リード日数などの考慮もしません。
⑩また、取りあえず製品の計画だけを考えます。
毎日10受注が入り、ロット纏めしないなら、毎日10個ずつ生産しているはずです。
 とすると、生産販売在庫の数字は次のようになります。

 本日(31日の金曜日)の夕方に月曜日出荷の10個の注文を受け、所要量計算したときに、翌々週の月曜(11日)に10の生産計画を立たせたい訳です。TPiCSの所要量計算は、固定期間(計画明細作成期間)を抜けた日に計画在庫が基準在庫に満たない場合は、それを満たすように生産計画を立てる性質を持っています。10日の計画在庫が95ですから、この場合基準在庫に105を設定しておくと、補充で10の計画が立つことになります。計画明細作成期間は、本日から11日先を固定するので、11にします。伝票発行期間には、明日の指示書を発行するので、1にします。
 この設定で、計画明細作成処理を行うと11日まで計画が仮固定されます。本日(今日)には、10 個出荷し、10 個製品が完成している筈です。それぞれ出荷、生産の実績を登録されて来ます。
 次に、日が進んで本日が月曜日になり、今日は受注数が多く13 個あったとします。そこで所要量計算すると、今度は、12 日の火曜日に13 の計画が立ちます。

 これを1週間続けると、31日から4日まで毎日受注した数量が11日から15日まで生産計画として立っています。毎日の受注数は一定ではないので、立っている生産計画も多い日、少ない日があって平準化されていません。そこで、5日(金曜日)に平準化や段取りを考慮して計画を調整します。

■基準在庫と実在庫について考えます。
  このような運用方法の場合、基準在庫には大きな値を設定しなければなりません。しかし、直ぐご理解頂けるように本当に在庫として残るのは、もっと小さな数です。毎日10個相当注文があれば、この設定の場合5個程になります。

■受注数のバラツキについて考えてみます。
 十分大きな基準在庫を設定したつもりでも、この設定のままだと、一度に大きな受注(16個以上)が入ると、直ぐジャーナルが出て、生産計画を変更しなければなりません。日々の受注数のバラツキを考慮すると、基準在庫はもっと大きな値を設定することになります。逆に少ししか受注がない場合は、翌々週の生産計画が少なくなり調整されます。
 基準在庫の設定は多少難しいかも知れませんが、TPiCSには「基準在庫の自動改善機能」があるので、これもシステムまかせにすることが出来ます。

■ロット纏めをした状態を考えます。
 ロットサイズを30とし、3日分を一度に生産するものとします。別の言い方をすると、おおよそ3日に一度計画が立つ(生産する)ことになります。(初期在庫は15あったとします)

31 日(金曜)の処理では11 日の計画は立たなくても良いです。

日が進んで1 日(月曜)の処理も計算在庫が足りているので計画は立たなくて良いです。

 2日(火曜)になると、仮固定した最後の日の計画在庫が95になり、基準在庫に105の設定をしておくことで1ロット(30個)生産計画が立ちます。このようにロット纏めをする場合も、受注数に見合った頻度で生産計画が立つことが分かります。

■実際の運用イメージを考えます。
 これまでの説明は一つの製品だけを考えて来ましたが、実際には沢山の製品があります。また、受注数ももっとバラツキがあるでしょう。ロットサイズももっと大きいかも知れません。すると、1週間の中でも生産しない製品もあったり、ある日の計画が大きかったりする筈です。それを週に一度調整します。その時、週の合計値を不変にしておけば、毎週末は常に設定した水準の在庫を持つことになります。逆に、もし合計数を変えた生産計画に調整しても、基準在庫を変更しなければその次の週の計画で再調整されるので、その週末は設定した在庫水準に戻ります。
 子部品の計画は、製品の計画を仮固定する期間内であれば親アイテムから算出される必要数を基に計算される通常のf-MRPの計算になりますが、足の長い部品は、ここで説明した製品と同じようなロジックで計算されます。
 TPiCSのf-MRP所要量計算は、製品も中間品も末端の購入品や材料も、全く同じようなロジックで計算します。
 これが「お客様のニーズに沿った生産」且つ「計画生産」を、出来るだけ少ない在庫で実現する方法です。