▲生産管理システムの関係者の皆さん

株式会社 桜井製作所

在庫の把握から生産計画、原価計算の自動化へ

生産管理のあるべき姿を追求

桜井製作所部品部の生産管理システムが力強く動き始めた。TPiCS-Xバージョン4.0のもと、従来、不透明だった仕掛りを含むすべての在庫が見える化され、在庫量の適正化を実現。所要量計算のシミュレーションにも着手し、将来の生産計画の自動平準化や原価計算へ活用まで視野に入れている。「現状は、まだ土台ができた程度ですが、手ごたえは十分感じています。今後も生産管理のあるべき姿を目指したい」と櫻井成二社長は意欲的だ。



精密部品加工と工作機械製造が二本柱

 ㈱桜井製作所は静岡県浜松市内に2つの工場を持つ製造業である。1つは工機部のある船岡工場(本社工場)、もう1つは部品部のある細江工場だ。工機部ではマシニングセンターなど自社製工作機械の開発・製造を行い、部品部では自動車部品などの精密加工を行う。国内には工作機械メーカーが多数存在するが、業態の異なる量産部品加工の事業も同時に手がけるのは珍しい。

 工機部で製造する工作機械は外販(受注生産)を目的としたものだが、部品部の加工機械としても使われている。

「社内にメーカー部門とユーザー部門を持ち、協力し合えることが最大のメリット」と櫻井社長。工機部と部品部の合作は、人気テレビドラマの「下町ロケット」の1シーンにも登場した。工機部で製造した多軸(5軸)加工機械を使って部品部で加工した精密部品であり、同社からテレビ局に提供したものだという。

 創業は1950年でオートバイの部品加工から始まった。9年後の1959年に工作機械「双頭ロータリーフライス盤800型」の1号機を開発。以来、一品物の工作機械の製造と量産主体の精密部品加工を事業の二本柱として今日に至っている。両部門の中でも、新たな生産管理の仕掛けづくりや生産管理システムTPiCS-X バージョン 4.0の活用などで先行しているのが部品部であり、今回はその取り組みを中心に紹介する。

 

▲下町ロケットに登場した製品▲


高品質と立ち上げの速さで定評

 ▲精密部品加工のライン

◀松井利樹氏

 桜井製作所部品部では自動車やオートバイ、農機具などのエンジンやトランスミッションに使われる大物部品の精密加工を手がけている。顧客から支給された鋳造素材を機械加工(小組を含む)によって完成部品に仕上げるのが主な仕事だ。製品試作から量産、補給部品の生産まで多様な注文に応じるが、最も得意とするのは月産3000~4000個の中ロット生産であり、中でも立ち上げの速さには定評がある。

「ものにもよりますが、受注からラインの立ち上げ、1回目の納品まで約3か月でできます」と部品部生産管理課課長の松井利樹氏は胸を張る。中ロット生産が得意なのは、補給部品や顧客企業の応援生産を数多く手がけ、ラインづくりに豊富なノウハウを持つためだ。大ロットになると作業性を考慮したラインを構築する必要があるので3か月を超えることもあるが、それでも同業他社に比べれば圧倒的な速さだという。常時50~60点の品番(試作を除く)が流れ、品番数はここ数年、毎年3~4点ずつ増えている。


TPiCSの使い方が間違っていた

 同社の生産管理の取り組みは、1980年代にオフコン(オフィスコンピュータ)の導入と社内開発によるシステムにまで遡る。 その機能は現在の生産管理システムとは比べようもないだろうが、地域では「システム部門を持ち、先進的な取り組みをする会社」として知られていたという。

 1990年代になってコンピュータのダウンサイジングが進むと、パソコンとサーバーによるシステムに切り替わった。システム部門は廃止され、ソフトウェアの開発、導入は地域のSI会社に委ねられた。ところが、そこでの問題が後々、尾を引くことになった。「地域のSI会社が生産管理の知識が無かったのに、当時は社内に専任部署が無く、SI会社に頼り切りになってしまいました。結果、長年、生産管理業務だけでなく会社全体の業務効率が悪化し、システムに振り回される状況が続いていました。」(櫻井社長)。

 生産管理関係ではスクラッチ開発のオリジナルシステムのほか、Accessを用いたソフトやパッケージソフトなど何本かが導入された。この中にTPiCSの旧バージョン(1998年にDOSのBtrive版を導入、2005年に3.1にバージョンアップ)も含まれた。本来ならば生産管理のすべての機能を揃えたTPiCSをきちんと使いこなせれば、問題はなかったとも考えられる。ところが当時はオリジナルシステムが中心で、TPiCSは月末に経理処理を行うため出荷実績と受入検収実績を入力するツールとしての使い方にすぎなかった。しかもそれぞれのソフトウェアやサブシステムは連携が取れていなかったため2重入力が強いられていた。特に致命的だったのは、在庫を把握できるのは素材だけで仕掛品・完成品の在庫がわからず、計画変更の都度、現場で在庫を数えないと確実な対応ができなかったことである。

 ▲櫻井成二社長


社長の決断、そして二人の専門家との出会い

 ▲徳増真宏氏      久城大樹氏▲

 ▲植松大輔氏

 転機が訪れたのは2015年。櫻井社長が先代から事業承継したのとほぼ同じ頃に、二人の生産管理の専門家と巡り合った。一人は生産管理の研究家でSIベンダーの㈱システムユニの社長を務める岡田敏明氏。もう一人は現在の総務部情報システム室室長で、当時はSI会社にて生産管理パッケージを専門として携わっており、生産管理システム導入を数多く最前線でこなしていた徳増真宏氏である。櫻井社長は二人に同社の現状を話したが、外部の人に細かな話まではできない。そこで、徳増氏を社内に招聘し、岡田氏は社外から協力してもらう体制で、新たな生産管理の仕組みづくりに臨むことにした。

 徳増氏は当時を振り返り、「TPiCSというパッケージがあるのに、わざわざ別のシステムを使っているのが不思議でなりませんでした。ともかく、この仕事は片手間ではやれないと判断し、入社させていただいたのです」と話す。キーマンが顔を揃えたところで、現状をヒアリングし、TPiCS4.0で生産管理システムを再立ち上げすることを決めた。主要メンバーはTPiCS研修会に参加し、「あるべき姿」を確認した。

 同社が特に重視したのは「生産管理の土壌ができていないところに、システムを入れても上手くいかない」ということである。そこで、主に岡田氏を講師として従業員向けに生産管理の研修を何度も開いた。土台づくりやルールの順守を説く講師らの熱意は従業員たちにも伝わった。

「入社以来、生産管理業務の研修が開催されたことはなく、先輩から『そのままやればいいよ』と言われてきただけでした。ところが別の人を見るとやり方が違う。なぜ違うのか尋ねると『上手くいかないことがあったが、こうやったら上手くいった』と言うのです。つまり、人が変わればルールも変わってしまっていたのです」と、部品部生産管理課の久城大樹氏と植松大輔氏は口を揃える。


仕掛り在庫の把握からスタート

 2015 年10 月にプロジェクトをキックオフ。最初に取り組んだのは、素材中心の在庫の考え方を見直し、仕掛り在庫を含むすべての在庫を把握できるようにすることだ。在庫がわからないと、生産計画まで辿りつくことができないためである。そのためにマスター登録や実績入力の方法をルール化した。マスター設定では原則をつくることと誰もがわかりやすいものにすることで苦労したが、結果的には代表的な製品の製造ラインを選び、どこで在庫が滞留するかを細かく調査し、その結果に基づいて品番を割り振るという方法を採用した。

 本格稼働直前の2016 年7 月には、146 項目に及ぶチェックリストによるTPiCS4.0 の検証を試みた。「従来のやり方と、TPiCS4.0 を使った時の計算結果の違いや整合性を調べたもので、クリアできたときはほっとしました」と、作業に当たった総務部情報システム室の織田貢明氏は話す。しかし、生産管理システムはTPiCS に一本化すると決めたものの、販売や経理との連携などを考えると、オリジナルシステムを急には止められない。そこで計画を見直し、暫くの間は併用しながら、徐々にTPiCS に移行していくことにした。

 ▲織田貢明氏

 ▲生産管理課のTPiCSの画面


あるべき姿を目指して

 ▲実績入力用のタブレット端末

 かくして、TPiCS が稼働すると、効果はすぐに現れた。従来、仕掛り在庫は作業者個人が管理していたので、どの素材がどの程度使われているのかがわからず、それが原因で欠品が生じることが度々あった。その見えなかった在庫が正確に把握できるようになった。仕掛り在庫がわかれば、在庫量の適正化が可能だ。そして、外注化している製品に関しては、所要量計算に基づく生産計画も行えるようになた。

 とはいえ、「生産管理システムの現状は土台ができた程度で、すべてはこれからです」とメンバーは口を揃える。現状での内作の生産計画は、各現場に設置したホワイトボードに手書きしたものを、生産管理課の従業員が巡回してタブレット端末に実績を入力し、それを

TPiCS に転送するという管理の仕方であり、現場でのリアルタイムの実績入力や、計画の自動平準化までは行っていない。 加工に必要なすべての素材が客先からの支給品のため、自社の都合だけで生産計画を立てられないなど一筋縄ではいかないのだ。 しかし、それを踏まえたうえで所要量計算のシミュレーションを開始しており、原価計算への適用も検討中である。ただし、同社では短期間で成果を上げることにはこだわらず、「急がず、慌てず、あるべき姿を目指していく」方針である。


会社概要

株式会社桜井製作所

▲本社工場

代表者 櫻井 成二

本社・

工機部

〒431-3124 静岡県浜松市東区半田町720
 TEL.053-432-1711 FAX.053-433-6116

部品部

〒431-1304 静岡県浜松市北区細江町中川7000-18
 TEL.053-523-2411 FAX.053-523-2419
設立

1950年10月

社員数 188人
資本金 1億円
売上高 59億円(2019年3月期見込み)
URL http://www.sakurai-net.co.jp/jp

主な製品例

▲自社製工作機械の1号機


導入システムインテグレータ

株式会社 システムユニ

生産管理システムを日々の生産活動と完全に連動させ、根気よく運用を続け、カイゼン・改革を推進する人材を会社の中に作ります


〒540-0038 大阪府大阪市中央区内淡路町2-4-2 ノアーズアーク天満203

TEL:06-6946-7001
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担当営業:久岡美弘

支援担当:下津智弘藤井昌弘

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