▲厚木工場の皆さん

鉱研工業 株式会社

業務の自動化が進み、ミスが大幅に減少

苦節10数年、TPiCS活用が本格化

10数年にわたる苦難の歴史を乗り越え、鉱研工業のTPiCS生産管理システムが軌道に乗り始めた。依然として旧システム(オフコン)との併用は続くものの、全社一丸となった取り組みが奏功し、補用品や部品レベルでは、従来、人手に頼っていた多くの業務が自動化され、手配漏れや発注ミスもなくなりつつある。神奈川県伊勢原市への工場移転を間近に控え、残る課題であるボーリングマシンなど本体クラスの実運用に向け、社内の士気は大いに高まっている。



ボーリングマシンのトップメーカー

 鉱研工業㈱は温泉、環境、施工、地下水など、ライフラインの開発に欠かせないボーリングマシン(掘削機械)のトップメーカー。機械の製造販売だけを行うメーカーが多い中、「施工やエンジニアリングを含め、総合的なサービスでお客様に満足していただくのが当社の特徴」と木山隆二郎社長は胸を張る。ここにきてメンテナンスサービスにも本腰を入れ始めた。製造拠点は従業員の約4割が所属する厚木工場(神奈川県厚木市)と諏訪工場(長野県諏訪郡)の2か所。ただし、主力の厚木工場は手狭になったため、近く、神奈川県伊勢原市内に移転し、2022年には現在の約1.5倍の広さを持つ新工場をフル稼働させる計画である。

 2021年4月、同社は5年後の売上高、営業利益率の計画をはじめ、それを実現するための新技術やサービス、生産性向上策などを盛り込んだ新中期経営計画「STEPUP鉱研ACTIONS2025」を策定した。計画には「無線を活用したハンドリングシステム」など、画期的な新製品の投入も含まれる。

 こうした新技術・新製品の開発もさることながら、同計画で注目されるのは、営業利益率を現状の約2倍の10%に引き上げるなど、売上高よりも体質強化に重点を置くことだ。「今の時代、右肩上がりに売上を描くだけでは現実的ではありません。社内にはまだムダが残っていて、激しい海外との競争には生産性も問題があり、それらの改善のほうが重要なのです。こうした体質強化にTPiCSは不可欠であり、これまで以上に活用が進むことを期待しています」(木山社長)。

 ▲ 厚木工場内の光景

 ▲ 木山隆二郎社長 製造本部長を兼務


過去には失敗を繰り返す

 ▲ 製造本部管理部課長の片峯慎太郎氏

 しかし、今でこそ業務効率化の要とされるTPiCS生産管理システムも、最初の10年間は、成果が上がらず苦しんだ。同社がTPiCS(Ver.3.1)を導入したのは2008年。それまでは長年にわたりオフコン(オフィスコンピュータ)を活用してきたが、在庫や製造リードタイムが正確に把握できず、手配漏れなどのミスが多発するなど、変化の激しい時代の生産管理システムにはそぐわなかった。TPiCSに着目したのは、カタログ性能を見てコストパフォーマンスが良いと判断したためである。

 ところが、導入から約4年経過しても活用は遅々として進まず、「TPiCSさえ導入すれば、何でもできるようになる」という甘い見通しは崩れた。TPiCSは優れたパッケージシステムだが、あくまでも道具であり、すべての関係者が操れるデータを入れないかぎり何も始まらない。その入り口でつまずいたのだ。

とくに、コード体系が慣れ親しんだ厚木工場の品番と大きく異なり、現場での運用よりもシステム稼働を優先しすぎたことが失敗要因と考えられた。それでも初代のシステム推進者は奮闘していたが、本人が交通事故に遭遇するという不運が重なり、新システムの運用は中断を余儀なくされた。

 それから数年後、2代目推進者である佐藤出氏(現諏訪工場部長代理)が社外コンサルタントの協力を得ながら、TPiCSの稼働に向けた取り組みを再開した。システム構築は佐藤氏が担当。コンサルタントは生産管理課や現場に対しての5S3定教育などを担当。後の基盤となった。

TPiCSを4.0にバージョンアップし、アイテムコードを現場が認識しやすい厚木工場品番に変えるなどの活動を行った。

 しかし、一度失敗を経験しているだけに現場の不信感は拭い去れず、目標としていたオフコンからの全面移管を果たすこともなく、1回目と同様に活動は停滞した。


部門間の垣根を外す

 流れが変わったのは、帳票作成担当だった片峯慎太郎氏(現製造本部管理部課長)が、体調を崩した佐藤氏に替わって3代目の推進役を務めるようになってからだ。

 片峯氏は前職時代に、数々のシステム開発で行き詰ったプロジェクトの立て直しを肌で経験していた。「実は、2回目の取り組みが失敗した大きな原因は、推進母体である生産システム部と他の部門との間に壁ができ、皆の協力が得られなかったことなのです」と片峯氏。立ち上げ専念のために用意されていた生産システム部専用の部屋に閉じこもるのを止め、コミュニケーションを密にするべく工務部生産管理課や管理部と同じ部屋に入れてもらった。

 「長い歴史があったので、まずは、良い部分も悪い部分も、作っていたマスターも、今までの担当の思いもすべて“いったんリセット”させていただきました」(片峯氏)。日常の生産業務は多くの部門が関係し、システム部門だけでは分からないことが多く、ともすると一方通行になりがちだった。「『社内各部門で代表者を選んでもらい、その代表者で構成したチームで行いたい』と進言しました。ただし、若手だけで突っ走ってもよくないので、部門長の方にもサポートをお願いしました」(片峯氏)。

 こうして、毎週水曜日にチームの定例会を開くこととし、やるべきこと、実現できそうなこと、項目ごとの結び付けと課題を整理し、優先順位を決めた。「そのころは立ち向かう難題が多く、避けるようだったので『火中の栗は僕が拾って洗います。でもその後は皆さん一緒に対処しましょう!』と言って、それぞれの役割をやってもらいました」(片峯氏)。

 その結果、最初に行ったのは原点復帰。つまり、ハードルを下げ、オフコンでできたことをTPiCSでやれるようにした。

「資材を購入するだけ、外部への発注は1社だけ」など、シンプルなパターンを選んで始めたが、これが大きくものを言った。皆が成功体験を持つことで、自信を深めたのだ。オフコンと同じことができると、次はTPiCSの優位性を生かして、前に進めていこうという雰囲気が社内に広がった。

 「TPiCSの凄いところは、基本機能はもちろんのこと、パッケージソフトウェアでありながらユーザーへの自由度が高く、熟知してプログラムがつくれれば、いろいろなものを組み込めることです。実際に、それを行うことで、ドンと進んだ感じがしています」(片峯氏)。

 ▲ TPiCSの画面


在庫漏れ、手配漏れがなくなる

 ▲ 製造本部厚木工場工務部長の長谷部智明氏

 ここにきて、同社のTPiCS活用はさらに進化をとげ、現場の人たちからも信頼されるようになった。現在では厚木工場の工務部、調達部、検査部、製作部、管理部、諏訪工場と、すべての部門でTPiCSは運用されている。

「オフコン時代の伝票発行は、人手8割、自動化2割という感じで、ほとんどを人の判断に頼って調整していたので、在庫漏れ、手配漏れが頻発していました。しかしTPiCSが使えるようになってからは、自動化が進み、ミスは大幅に減少しました」と製造本部厚木工場工務部長の長谷部智明氏は話す。

 「製造指示書などもかつては手書きで行っていましたが、今は自動化され、ボタン1つ押せば1~2分で出るようになりました」と話すのは同工務部生産管理課課長の遠藤典和氏である。「発行数が少なければ手書きでもなんとかこなせましたが、数が多いと4人がかりで書いても間に合わないくらいでした。今はTPiCSの計画を画面で確認して印刷するだけなので、1人で十分行えます」(遠藤氏)。

 バーコードリーダーを入れてからは、在庫検索や入庫登録もよりスムーズになった。「オフコン時代は、最終的な登録業務はすべて生産管理課でやっていましたが、今はモノが入ったら検査部門でやってもらえるようになったので、生管部門の仕事はずいぶん楽になりました」(遠藤氏)。


 ▲ 同工務部生産管理課課長の遠藤典和氏

本体の実運用に挑む

 TPiCSの適用率は補用品や部品レベルでは売上件数ベースで50%を超えるところまできた。2代目推進者である佐藤氏が率いる諏訪工場のロッド管理では適用率は80%にまで高まっている。トータルのアイテム数も1300品目を超えた。それだけ、オフコンからのデータ移管が進んでいるわけだが、同社では、この移管作業を決して急ごうとはしていない。というのも、ボーリングマシンは長い年月使用され個別受注設計することも多い。数十年前の製品のメンテナンス部品は7千のレベルになる。現在でも在庫対応できる部品に絞っても5千を超える。その中には、何年間も動かない在庫もあり、安易にTPiCSに移してしまっては「計画を管理して在庫を減らす」というTPiCSのコンセプトが生かされなくなるからだ。

 このため、今は、工場の倉庫から年間3回以上使用したものはTPiCS管理とし、使用頻度が少ないものはオフコンでの管理を残している。急がず、慌てず、あくまでも着実に王道を進むという方針なのだ。

 一方で大きな課題も控えている。現段階でのTPiCSの活用は、まだ部品に留まり、ボーリングマシンなど建設機械本体を管理するまでには至っていないが、今後、これらの「本体」の管理も順次、TPiCSで行う考えである。その第一弾として2020年12月に部品数200~300のポンプ製品でテストしたところ、上々の成果を収めたという。大型設備になると部品数は桁違いに増え、管理も複雑になるが、手ごたえは十分感じているようだ。

                     ▲ 厚木工場内の作業風景


会社概要

鉱研工業株式会社

▲厚木工場社屋の外観

代表者 木山 隆二郎
本社 〒171-8572 東京都豊島区高田2-17-22 
目白中野ビル1F
 TEL.03-6907-7888 FAX.03-6907-7527
厚木工場

〒243-0801 神奈川県厚木市上依知3012-2

 TEL.046-285-1331 FAX.046-285-1368

設立

1947年

社員数 230人
資本金 11億6541万円
売上高 76億円(2020年3月期)
URL http://www.koken-boring.co.jp

主な製品例

▲ボーリングマシン